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ル・コルビュジエ展

本日遅ればせながら、上野国立西洋美術館で開催中のル・コルビュジエ展に行った。

 

以前からル・コルビュジエは建築家としては知っていたが、名前の発音さえ辿々しく、彼自身のことは詳しくは知らなかった。今回の展覧会は彼の建築自体というよりも、彼の建築のバックボーンを知れる展示であった。

 

本名は、エドワール・ジャンヌレ。

第1の発見は、彼は建築家であり、画家でもあったということ。彼はピュリスム(純粋主義)という絵画運動を、アメデエ・オザンファンという画家とともに主導した。

 

ピュリスムとは、機械文明の進歩に対応した「構築と総合」の芸術を試みた絵画運動。1920年ごろから始まった。コルビュジエとオザンファンは「エスプリ・ヌーヴォー(L'Esprit Nouveau)」という雑誌の中で、この絵画形式を主張した。(個人的な感想を言えば、表紙がとてもツボだった。雑誌の号数の数字が表紙の大部分を占めているのだが、”No.” のNの文字の配置が毎回異なっている。その配置のバランスが巧妙すぎて、見惚れてしまった。)

第一次大戦後、急速に機械文明が発達していく中で、芸術も同じように進化すべきだと考えた。合理的で普遍的な美を目指そうというコンセプトの絵画運動らしい。

様々な角度から観察した身の回りの日用品を、合理的で無駄がない配置で、組み合わせた絵画を描いている。

 

様々な角度から物を観察し、それを再構築した芸術といえば、パブロ・ピカソジョルジュ・ブラックらのキュビズムがある。ピュリスムは、キュビズムを批判することで出てきた絵画形式。一次大戦前の混乱が絵に現れている、観察物の配列が無秩序であると指摘した。そのため、ピュリスムは配列に黄金比を用いるなど、徹底的に合理的で美しい配列にこだわっている。

 

また、初めはキュビズムを批判するも、次第にピュリスムキュビズムを捉え直し、尊重するようになる。

ピュリスム前期(1910年頃〜)は、モチーフを様々な角度から観察し、絵画が立体的に見えるように描いていた。キュビズムのモチーフを平面的に捉える表現技法から影響され、ピュリスムの後期(1922頃〜)は、モチーフを平面的に捉え、輪郭線のみで描いた。隣のモチーフと重なりあう部分は透明で描かれ、連続した空間を表現した。

興味深いのは、立体的に描くより平面的な方がより絵画に奥行きが出るように感じるということ。

 

当初、ル・コルビュジエは建築界の隅の方で仕事をしていた。オザンファンに声をかけられ、建築家の傍ら、絵画を描いた。絵画を描く上で、合理的な配置に関しては建築の知識が生きることもあった。また、ピュリスムの重なりあうモチーフを表す表現技法は、コルビュジエ独特の重なりあい、仕切りがない連続した空間を創る建築にも生かされた。

 

まさに今回の展覧会からは、異分野と異分野が融合しあい、止揚される様が見て取れた。

 

自分の中に蓄積されたものは、何一つ無駄なものはないのかもなあ。大学時代学んでいた事と現在の職業は全く関係ないが、時々知識がリンクすることがある。今の知識や経験が、別の場所で生きることだってあるんだなあとしみじみ思った。